<原点>父よ、歴史の昔話を有難う


小松帯刀と薩摩伊東氏

--藩政治安・海防異国船掛・大隅開発・明治維新--


    

 伊東勇吉(明治36年5月生 享年78才) 幕末薩摩藩士の祖父伊東源右衛門(通称「源四郎」文化12年9月15日生)の嫡孫。
この写真は、著者が昭和34年8月(1959) 勤務先の大阪から鹿児島に帰郷した際撮影(子供は孫の一人)。 

 西南戦争の異変によって薩摩が敗戦国、西郷の薩軍が賊軍とされたため、この家の嫡男は、長崎に設けられた西南戦争の軍事裁判所の判決で受刑し、この家は没落・離散して経済的苦難に見舞われた。
 そのため、維新以前を承継した戸籍簿のほかは、古い家系図や歴史の書き物は失われた。残された歴史は家族の口伝、昔話だけであった。日本の歴史的津波に翻弄され、官軍の制裁を受けた嫡男(次吉)の墓石も至って密やかであった。
 また、伊東祐吉(すけよし)流であるので「勇吉」(ゆうきち)の名は「祐吉」(ゆうきち)の音に当て命名したのかも知れない

 なお、 肝付氏は、島津氏に降伏する以前は「大隅領主の肝付氏」であった。
 大隅半島の鹿屋、鹿屋原、田崎、祓川、笠野原、花岡、大姶良、串良等の一帯は、もともと農業に適さない桜島火山帯のシラス台地の山間・荒地であったが、薩摩藩が飢饉に見舞われた天明年間頃から、藩政プロジェクトとして開拓を進め、一つの広さが約40町歩ほどの「○○堀」と呼ばれる広大な農業用地が開発された。
 現在の鹿屋市史によると堀の名前がついた土地・字名は鹿屋79、大姶良14、花岡1、高隈18、串良16とあり合計138ヶ所、単純計算して約5,500町歩の広大さであった。
 そして、矢柄堀、下堀(喜左衛門堀)、休左衛門堀、次郎右衛門堀、良右衛門堀、大堀、堀添堀、獅子目堀、垂水堀など138の堀の中には、伊東氏が開発領主とされる数多くの堀がみられる。此処にも、家老小松帯刀と伊東氏との深いつながりが読み取れる。
(参考:鹿屋市史上巻 P327~P338 第九章大隅の開発)






     <薩摩/鹿屋伊東氏>

  
畑の中で出会った父の昔話

 著者に伊東家の歴史の調査を促し創作の動機を与えた歴史館の源泉は、太平洋戦争の戦禍の後間もない少年時代に聞いた明治生まれの「父親の昔話」であった。
それは、薩摩伊東家の歴史の家伝であったが、家運の厳しい現実につながる先祖の話は、どのような因果であろうか、多くの身内の中で誰よりも関心の高かった著者に連れ添って離れなかった。そして何時しか「
自分が解明して後世に伝えねば、ここ伊東家の歴史と父の想いは永遠に消えてしまうという焦る思い」が強まり、会社の定年の数年前から始めた活動であった。
 父は、色々語ったが、悲しいかな子供の理解力と記憶ではその大半を聞き逃しあるいは忘れている。
 その中で、
薩摩の伊東家は、関東・伊豆にはじまり隣国・日向の由来であること、島津氏・肝付氏・根占氏・田代氏等とは歴史的な深い関係があったこと、歴代この家は江戸・京との往来も多く、幕末のこの家の祖父伊東源右衛門は、島津藩主と表家老・小松帯刀(こまつたてわき)に仕えて活躍したという。
 
また、
島津藩による「大隅の開発領主」にも主役をなしていたので維新当時に薩摩から鹿屋に移住している。

 このように、薩摩伊東氏は、家格が「小番太刀」とされ、島津藩主に近侍して、目付・吟味役など藩政治安、外国船海防の「異国船掛」、大隅地方庄園開発のほか、幕末・明治維新に当たっては、島津藩主の警護親衛隊(島津学校・温古堂)等の要職を勤めて、家老小松帯刀に仕え活躍していたことが記録に認められる。
 また、帯刀は、薩摩加世田・吉利領主、島津藩家老としてその領民への善政と卓越した識見・人物を覗わせて、それを裏付けるように、父をはじめ一族の昔話には親しみを以って、「小松どん」のことがしばしば登場していた。
 小松氏は、平安時代、京の平家清盛の嫡男平重盛が小松殿と称されていたことに由来する名前で、先祖平重盛に因んで改姓したという。
 幕末に小松家当主が琉球在任中死去し、嗣子が無く断絶の惧れを迎えた。そこで、藩主島津斉彬の勧めにより、喜入領主の肝付兼善三男であった肝付尚五郎(清廉)が、小松家当主の妹に入婿となって家督を継ぎ歴代の官名(官途)である「小松帯刀」を名乗った。

 なお、伊東氏先祖工藤祐経は、京で約15年御所勤めをしていたが、この間、平重盛小松殿の館で参見、重盛が烏帽子親となって元服し天皇の御所・清涼殿の警護の武官として仕えていた。従って、「小松氏」を称した大隅の豪族根占(禰寝)氏と根占や吉利・日吉に依拠した薩摩伊東氏との間には、平安時代以来存在した両者の深い因縁が注目される。



伊東家の歴史館
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